Black night

 

「ラス・・・・・・・・・キレイだね。」

真っ赤な血に染め抜かれ、夜の闇が一人の少年の姿を映し出す。

目の前に転げるのは無残に切り裂かれた死体。

誰が殺したのか・・・・・。

目に映るのは鮮やかな緋色の美しい芸術。

死の芸術―――――――。

 

ある一角の廃屋のビル。

夜中にだけ開かれる彼、殺羅鬼裏(せつらきり)の秘密の事務所。

評判はとてもよく、仕事が無い日はごく稀にしかない。

今日も彼はここにきた。

誰もいないコンクリートがゴロゴロしてる部屋に古ぼけたソファが一つ。

横になりながら客が来るのを待つ。

コトリ。なにか物音がしたので目を開いて呼びかける。

「誰だ。」

「おや、起こしちまったかい。すまねぇな。」

黒い背広にサングラス。いかにも悪役っぽい姿で現れたこの男はここ数年の常連客だ。

「今日は何のようだ。」

「何言ってんだ。いつものもんに決まってんだろ?」

「ここはそういう所だろ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「違うのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・いや。」

全くこの男とはどうもペースが合わない。

長い間付き合っていてもやはり慣れなかった。

男はポケットの中からゴソゴソと写真と地図らしきものを取り出した。

「今日のターゲットはこいつだ。」

「感懐もいつもの調子でバッチリ殺ってきてくれよな。

「じゃぁな。」

そう殺羅の正体は腕利の

―――――――――――暗殺者。

狙った獲物は逃さない。

一度だって失敗したことはない。

「ラス、行こう。」

「仕事だ。」

彼の右手にしっかり握られているナイフに向かって呼びかける。

「ラス空が綺麗だよ。」

空一面に真っ黒な雲がかかっていて月さえ見えない薄気味悪い静かな夜だった。

 

ターゲットの家はすぐ近くにある普通の一戸建てだった。

中には電気が灯り、一人の男と一人の女の影がちらほらと見えた。

多分二人は夫婦だろう。仲のよい新婚の様だった。

女の姿が見えなくなったのを確認して、開いていた窓から侵入した。

その瞬間に殺羅は男の口を手で塞ぎ、床へ押し倒していた。

「ん・・・・・・・・・・・うぅぅ・・・んっ。」

男は必死にもがいている様子だったが殺羅の体はぴくりともしなかった。

なんなんだこいつは・・・・・・いきなり人の家へ入ってきて。

それに目が・・・・・・ヤバイ!

身の危険を察してますます必死に男はもがく。

殺羅はそれを楽しげにじっとみつめていた。

「お前、弱肉強食という言葉を知っているか?」

突然の質問に男は戸惑ったがそんな必要などなかったのだ。

その質問は『これからお前を殺す』という予告の意味だったのだから。

「つまり・・・こういうことだ。」

殺羅は質問の答えと云わんばかりにラスを男の心臓に突き刺した。

がたんっ。

「あ・・・・・・・・・・あな・・・・・・・た。」

「・・・・・。」

婦人に顔を見られてしまった殺羅は逃げることはせず、ゆっくりと女のそばに近寄って行った。

女は恐怖のあまり、動く事も声を出す事もできなかった。

殺羅は女の首の動脈を切り、大量の血しぶきを浴びながら二つの物体を眺めて言った。

 

「このほうが悲しくないだろう?」

 

 

Black night  第一殺 

 

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